遺産分割協議書の虚偽が発覚し、騙されたとお悩みの方へ
遺産分割協議も終わりを迎え、遺産分割協議書に署名捺印をして、ようやく一段落と思っていた矢先、知らなかった遺産が出てくるなど、思っていた結果とは違う事態になって、「騙された・・・」とお悩みの方は少なくありません。
騙されたけれど、自分が気付けなかったから泣き寝入りするしかないのか?と思って、弊所に相談がくることもしばしばあります。では、騙されたとわかったらどうしたらよいのでしょうか。弁護士の視点からお伝えしていきます。
遺産分割で騙されたと思ったらまずは弁護士に相談を
結論、わかった時点ですぐに弁護士に相談することが、一番重要なことです。泣き寝入りすることはありません。なぜなら、遺産分割協議で本当に騙されていたら、その意思表示を取り消すことができる場合があるからです。
意思表示の取消について
遺産分割で騙されていることが発覚し、錯誤・詐欺に該当する場合は、遺産分割の意思表示を取り消すことができます。民法でいうと、以下の条項に該当します。
- 錯誤:民法95条1項
重要な誤解が発生し、その誤解に基づいて遺産分割の意思表示をした - 詐欺:民法96条1項
嘘の内容を信じて、遺産分割協議の意思表示をした
これらの問題が発生・発覚した場合は、速やかに弁護士にご相談ください。
遺産分割協議にある、虚偽の事例
- 遺産を隠されてしまった場合
- 相続財産の金額(特に不動産など)で嘘をつかれる
- 特別受益(生前贈与など)を隠していた、黙っていた
- 実は遺産を使い込んでしまっていた
これらの場合は、遺産の全体像を正しく把握できない上に、適正な遺産分割協議を妨げる行為となります。したがって、遺産分割協議中に「怪しい、なにかおかしい」と感じたら、その時点で弁護士に相談するのも1つの手です。
単なる不満では取り消しは認められない
遺産分割の取り消しは、錯誤や詐欺に該当する場合に限られます。単に「納得できない」といった理由だけでは取り消しは認められません。例えば、「内容をよく確認せずに署名してしまった」「一度は納得したが後で考えが変わった」などのケースでは、遺産分割の意思表示の取り消しは難しいです。
遺産分割協議書に署名押印する前に専門家による点検を受けることが一番の予防です。
署名押印済みの遺産分割協議書をひっくり返すことの難しさ
普段の生活のなかでもよく見ると世の中は契約書が溢れています。不動産を購入するとき、事業資金を借り入れるとき、車を購入するとき、動画配信サービスに加入するときなど、契約書や利用規約などが作成されています。
もし、署名押印済みの契約書が簡単にひっくり返るような世の中になったらどうなるか考えたことはあるでしょうか。簡単に契約がひっくり返ってしまうのであれば、おそらく、普段の生活も経済もおかしくなってしまうでしょう。
だからこそ、署名押印のある契約書をひっくり返すことは法的に高いハードルがあり、ひっくり返る事例というのは例外的です。
遺産分割協議の特殊性
同様に、遺産分割協議書も一度署名押印したときには、後でひっくり返すことは例外的な事情がなければ難しいです。
また、立証のハードルも高いです。例えば、遺産の評価について騙されたという場合、「騙した」ということを証拠で証明する必要がありますが、遺産分割協議の場合、メールやメッセージよりも口頭のやり取りなど記録に残らない形で協議を進めてしまっているケースが多いです。そうなると、裁判所を納得させるだけの証拠資料が足りず、言い分が認められないことになってしまいます。
手続や費用や負担の大きさ
遺産分割協議書をひっくり返す場合、まずは遺産分割協議が無効である(不成立である)ことの確認を求める訴訟を行うことが通常です。この訴訟だけでかなりの時間や弁護士費用などのコストがかかります。
この訴訟に勝訴したあとに、遺産分割協議のやり直しをすることになりますが、相続人同士が対立している状況のため、調停手続をとることが多いです。そうなると、またここでも時間や費用面のコストが増えてしまいます。
遺産分割協議書をひっくり返すことの大変さを考えると、遺産分割協議書に署名押印する前の段階で、ひとまずは弁護士などの専門家による点検を受けられることをお勧めいたします。