遺言書がない場合の遺産相続で起こりうるトラブルと解決策
遺産相続は、被相続人(亡くなった方)がどのような遺志を持っていたかを示す「遺言書」があるかどうかで大きく進め方が異なります。
しかし実際には「どのように書いていいか分からない」「財産が少ないから大丈夫だろう」といった理由で、遺言書を用意していない方も多くいらっしゃいます。
その結果、遺産相続の局面でトラブルが生じるケースが後を絶ちません。ここでは、遺言書がない場合の相続の進め方と、起こり得るトラブル、そして解決策について解説します。
1. 遺言書がない場合の遺産相続はどうなるのか
被相続人が遺言書を作成していない、または遺言書が見つからないときは、「法定相続人」が民法で定められた割合(法定相続分)に従って相続することが原則です。ただし、どの遺産も自動的に単純分割されるわけではなく、大きく分けると以下の2つに分類できます。
- 遺産分割が必要なもの
- 不動産、銀行預金(預貯金払戻請求権)、動産、有価証券など
- これらの財産は、すべての相続人で「遺産分割協議」を行い、具体的な分け方を決めなければ単独で処分できません。相続開始から長い間分割がなされず、不動産の名義が被相続人のまま放置され、さらに相続人が増えてしまう例も見受けられます。
- 遺産分割をしなくても当然に分割されるもの
- 現金や貸付金などの金銭債権
- これらは法定相続分に従って自動的に分割されます。ただし、相続人同士の話し合いで、法定相続分とは異なる分け方をすることもできます。
遺言書がない状態で相続が発生すると、多くの場合、「相続人の特定」と「相続財産の特定」を丁寧に行ったうえで、相続人全員の合意による「遺産分割協議」が必要になります。この手続きを進めないまま放置してしまうと、相続人がさらに亡くなってしまい、話し合いに加わる人が増えるなど、手続きが一層複雑になるリスクがあります。
2. 相続人を特定する際に生じるトラブル
相続人が一人であれば問題は起きにくいものの、兄弟姉妹が複数人いる場合や、前配偶者との間に子どもがいる場合など、想定外の相続人が存在するケースも少なくありません。さらに、行方不明の親族がいる、戸籍が複数の地域にわたっているなど、相続人調査そのものに時間や手間がかかることがあります。
法律上、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。そのため、戸籍謄本を取り寄せて被相続人の生涯の戸籍関係を確認し、相続人をもれなく確定する作業が欠かせません。これは、被相続人の養子縁組や結婚・離婚などの経緯が複数あった場合には特に煩雑になりやすいので、専門家のサポートが求められる場面です。
3. 相続財産を特定する際に起こる問題
次に、遺産分割協議を行うには、相続対象となる財産をすべて把握しなくてはなりません。しかし、被相続人が生前に財産内容や管理状況を整理していなかった場合、想定外の負担がかかることがあります。
3-1. 預貯金の特定が難しいケース
通帳が発行されていないネット口座や、知らないうちに作られた口座などがある場合、その有無の確認が難しく、金融機関に一つひとつあたる必要が出てくるかもしれません。
3-2. 不動産に関する調査負担
被相続人名義の不動産がどこにあるのか把握できない場合、地方自治体で「名寄せ帳」を取得する方法もありますが、地域を特定して調べる必要があります。とくに複数の地域に不動産を所有しているケースでは、思いがけない場所に物件が見つかることもあるため、時間や費用の負担が大きくなりがちです。
4. 遺産分割協議で起こりうるトラブルの事例
遺産分割協議自体は、相続人全員が合意できればスムーズに終わる場合もあります。しかし、以下のような要素が加わると、協議が長期化し、トラブルへ発展しやすくなります。
- 寄与分の主張
特定の相続人が、被相続人の生前に財産の維持や増加に貢献した場合、その貢献度に応じて相続分を上乗せする制度です。たとえば、被相続人の事業を支え続けた子どもと、長い間連絡を取らなかった子どもが相続する場合に争いが起きやすいです。 - 特別受益の有無
一部の相続人だけが結婚資金や住宅購入資金を贈与されていた場合など、それを「すでに受益を得ている」として遺産分割で調整する必要が出るケースがあります。その認定を巡り、相続人同士が対立することもあります。 - 分割が難しい財産の処理
不動産のように金銭のように細かく分けられない財産は、共有にするか、誰か1人が相続して他の相続人に金銭で補填する(代償分割)かなどで意見がまとまらず、紛争になるケースがあります。
5. 遺言書がない場合のリスクと弁護士に相談するメリット
遺言書がない場合は、「相続人調査」と「遺産分割協議」が複雑化しやすいといえます。そして、もし相続人同士で意見が衝突すれば、調停や審判、さらには訴訟にまで発展してしまう可能性も否定できません。こうした紛争が長引くほど、費用も時間も精神的な負担も大きくなっていきます。
しかし、弁護士に早めに相談することで、以下のメリットを得ることができます。
- 戸籍調査や財産調査の代行
法律や実務に精通した弁護士であれば、被相続人の戸籍を正確かつ迅速に取り寄せるノウハウを持ち、財産調査においても必要な書類の取得や手続きの進め方をアドバイスできます。 - 遺産分割協議のスムーズな進行
各相続人の意見を聞き取り、法的根拠に基づいた落としどころを探ることが可能です。トラブル回避のための法的見解を示すほか、家庭裁判所での調停手続きも含めてサポートが受けられます。 - 精神的負担の軽減
相続はただでさえ悲しみのなかで進めなければならない手続きです。さらに相続人同士の対立が起こると、当事者同士で話し合うことが大きなストレスになります。弁護士に依頼することで、交渉役や手続きの窓口を一任でき、精神的負担を大幅に軽減できます。
6. 早めの遺産分割協議と専門家への相談を
遺産分割協議は時間が経つほど相続人が増えたり、相続財産が整理しづらくなったりして、解決までに膨大な手間や費用がかかる可能性があります。遺言書がないことが発覚した場合、なるべく早く手続きを進めることが望ましいでしょう。
- 相続人調査や財産調査をしないまま放置すると、状況がさらに複雑化する恐れがある
- 弁護士に相談することで、スムーズな解決や精神的負担の軽減を図れる
もし「遺言書が見つからない」「相続人が把握しきれない」「財産がどこにあるか分からない」といった不安をお持ちでしたら、早めに法律の専門家である弁護士へご相談ください。
まとめ
- 遺言書がない場合には、法定相続分に従って相続するのが原則ですが、不動産や預貯金は遺産分割協議が必要です。
- 相続人を確定させるために、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せるなど大きな手間がかかる場合があります。
- 遺言書がないと、寄与分や特別受益、分割の難しい不動産の扱いなどをめぐり、親族間トラブルが生じやすいです。
- 弁護士に依頼すれば、相続人調査・財産調査、遺産分割協議のサポートを受けることができ、精神的負担を軽減できます。
- 相続人が増えすぎる前に、なるべく早めに遺産分割協議を進めることが重要です。
もし遺産相続手続きでお困りの場合は、ぜひ一度弁護士への相談をご検討ください。早期のアクションが、トラブルや負担の軽減につながります。