相続財産調査の重要性とは? 弁護士に依頼してスムーズに進めるメリット
親族が亡くなると、悲しみと同時に「相続手続き」という複雑な手続きを進めなくてはなりません。とくに、故人が所有していた財産(プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含む)が把握しきれていない状況は珍しくありません。
「遺産分割協議をしないといけないが、そもそもどんな資産を持っていたのかわからない…」「調べる時間も方法もよくわからず困っている」など、さまざまな不安があることでしょう。
そんなときにまず必要になるのが「相続財産調査」です。実は、この調査は弁護士に依頼できることをご存じでしょうか。ここでは、相続財産調査の重要性や基本的な調査方法、そして後々のトラブル防止のために弁護士へ依頼する大きなメリットを解説します。
1. 相続財産調査が必要な理由
相続財産調査とは、亡くなった方(被相続人)の プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めてあらゆる遺産を洗い出し、その価値を正確に把握すること をいいます。この調査をしっかり行わないと、以下のような問題が起こりやすくなります。
- 遺産分割協議のやり直し・トラブル
- 「話し合いが終わったあとに新たな財産が見つかった」「実は隠れた借金があった」などが判明すると、相続人同士の疑心暗鬼や対立を生みがちです。
- 相続人全員の合意を取り直さなければならず、負担が増大します。
- 相続方法の選択ミス
- プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合、相続放棄や限定承認といった選択肢が考えられます。しかし、財産の全容を把握していないまま単純承認してしまうと、思わぬ借金まで背負う可能性があります。
- 相続税申告の手続きミス
- 故人の相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合、死亡を知った日の翌日から10カ月以内 に相続税の申告が必要です。調査が不十分だと申告漏れが起こり、ペナルティを科されるおそれもあります。
このように、財産調査を怠ると、その後の手続きが大きくこじれたり、思わぬ負担を抱え込んだりするリスクが高まります。
2. 相続財産調査で確認すべきポイント
故人の財産は、預貯金や不動産などわかりやすいものだけとは限りません。インターネットバンキングの口座や、書面のない株式・投資信託、あるいは消費者金融やカードローンからの借入など、多岐にわたる可能性があります。以下は主な調査対象です。
- 預貯金・金融資産
- 取引履歴・残高証明書の取得
- ネット専用口座の有無
- 投資信託・株式・国債など
- 不動産
- 固定資産税の納付書や「名寄帳」の確認
- 複数の市町村に不動産を持っていれば、各自治体で資料を取り寄せる必要あり
- 動産・貴金属など
- 自動車や宝飾品、美術品、ゴルフ会員権など
- 貸金庫の中身が未確認の場合は、金融機関での引き落とし履歴から情報を掴めるケースも
- 借金・負債
- 信用情報機関への開示請求
- クレジットカードの明細やローン書類を確認
- 保証債務や個人間の貸し借りがあるかどうかも要チェック
上記のような財産を「全て」もれなく探し出し、必要書類を揃え、相続税や相続放棄の可否を判断しなければなりません。これは、相続人が自力でやるには相当な労力と時間のかかる作業です。
3. 相続財産調査に期限はあるのか
相続にまつわる手続きには、いくつか重要な期限があります。
- 相続放棄・限定承認の期限
- 被相続人が亡くなったことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ申請
- もし相続財産調査が遅れれば、期限までに判断ができず、やむを得ず単純承認する羽目になりかねません。
- 相続税の申告期限
- 被相続人が亡くなった日(死亡を知った翌日)から10カ月以内
- 財産額の全容が見えず、期限を超過すると税務上のペナルティを課されるリスクがあります。
調査に時間がかかりそうであれば、家庭裁判所に放棄・限定承認の期限延長を申し立てる といった手段もありますが、いずれにしても手続きは迅速に進めることが理想です。
4. 弁護士に依頼できる相続財産調査の内容
「相続財産調査は弁護士や税理士などに依頼できる」と聞いたことがあっても、その具体的な範囲がわからず踏み出せない方も多いかもしれません。たとえば、弁護士に依頼すると、以下のサポートを受けられます。
- 戸籍調査・相続人の確定
相続対象者が誰なのかを出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて確定する。 - 金融機関への照会・残高証明書の取得代行
必要書類の収集や問い合わせを弁護士がまとめて対応。 - 不動産の調査(名寄帳の取得など)
物件が複数ある場合でも、書類の取り寄せや評価のアドバイスを得られる。 - 負債・債務の有無を確認
信用情報機関の調査手続きも含め、漏れのない確認をサポート。 - 調査結果を踏まえた相続手続きのアドバイス
相続放棄や限定承認を選ぶべきか、弁護士が専門的見地から案内。 - 遺産分割協議の代理
調査で判明した財産をもとに、相続人同士の協議や交渉をスムーズに進められる。
法律上のトラブルが予想される場合には、とくに弁護士への依頼が有効です。もし紛争に発展しそうな場合、最初から依頼しておくことで結果的に費用や時間、精神的負担を抑えられます。
5. 弁護士に依頼する3つの大きなメリット
(1) 時間と手間の削減
調査は一見シンプルに見えても、金融機関や自治体へ何度も足を運び、書類を取り寄せるなど、非常に煩雑な作業を要します。弁護士に任せれば、書類の取得や問い合わせの大半を一括で行ってくれるため、自分たちで奔走する負担を大幅に減らすことが可能です。
(2) 後々のトラブル防止
相続人間の話し合いがもつれたり、判断を誤って想定外の借金を抱えたりするケースが多々あります。弁護士のサポートがあれば、法律の根拠や実務経験に基づいて確実なアドバイスを得られ、協議段階での紛争リスクを最小化できます。
(3) スムーズな相続手続きが可能
調査が完了したあとの遺産分割協議や、その後の名義変更手続きなど、相続関連の手続きはまだ続きます。弁護士であれば、不動産登記や相続税申告が必要な場合は提携先の司法書士・税理士とも連携しながら、ワンストップで進められる体制を整えている場合が多いです。
6. 自力での調査と弁護士依頼の使い分け
もちろん、自力で相続財産を調査すること自体は可能です。
- 財産がごくシンプル(単一の銀行口座しかないなど)
- 相続人同士が完全に協力的で、トラブルの予兆がない
- 相続税の申告も必要なく、相続放棄もまず検討しない
といった場合は、相続人同士で書類を取り寄せ、スムーズにまとまるかもしれません。
しかし、「時間がない」「どこをどう調べればいいかわからない」「もしかしたら借金があるかも」「相続人が複数地域に分散していて話し合いがまとまるか不安だ」 といった状況なら、専門家に任せるほうが遥かに効率的です。結果的に時間とストレスを軽減し、かつ後々のトラブルを回避できる可能性が高いでしょう。
まとめ
- 相続財産調査は、相続人全員にとって重要な第一ステップ。
不十分な調査は、後から出てきた財産や負債によって協議をやり直すリスクがあります。 - 相続ではプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含めて相続対象。
調査をしないまま相続放棄の判断ができず、思わぬ借金を背負う可能性も。 - 主要な手続きには期限あり。
相続放棄・限定承認は3カ月、相続税申告は10カ月など、早めに調査を進める必要があります。 - 弁護士に調査を依頼すれば、時間と労力が大幅に削減できるうえ、トラブルを防止しやすい。
紛争が発生しそうな場合は特に弁護士に任せたほうが安心です。 - 自力で調査するか、専門家に依頼するかは状況次第。
相続財産や相続人の状況が複雑な場合は、専門家の力を借りるメリットが大きいでしょう。
もし「相続財産の全容が分からない」「借金や隠れた資産があるかもしれない」「遺産分割協議で揉めそう」といった不安があるなら、早めに弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。複数の金融機関や自治体、信用情報機関に個別に問い合わせる手間が省けるだけでなく、法律にもとづいた的確なアドバイスを受けられるため、後々のトラブルを避けながらスムーズに相続を進められます。
相続手続きは人生のなかでも負担の大きい場面のひとつ。専門家のサポートを受けることで、時間的・精神的なコストを減らしながら、家族やご親族の大切な財産を円満に引き継いでいただければと思います。